バーチャルマーケットを主催する株式会社HIKKYの代表取締役・舟越靖氏
新型コロナウイルス感染症の影響により、展示会やイベントの中止や延期が相次いでいる。こうした中、これまで以上に注目されるようになったのがVR(仮想現実)空間上で行われるVRイベントだ。一般的な展示会やイベントでは、人が密集する可能性が高いため、現状では開催するのは難しい。感染リスクがないVRイベントは、従来の展示会やイベントの代わりになると期待が集まっている。
そのため、ここ最近さまざまなVRイベントが開催されているが、VR機器がまだ一般に浸透していないこともあり、その多くが参加者集めに苦慮しているのが実情だ。そんな中、国内外から多数の参加者を集め、米国の経済誌『Forbes』から「世界最大のソーシャルVRイベント」と評されたVRイベントがある。株式会社HIKKYが主催する「バーチャルマーケット」だ。
最大の呼び水はクリエイター
バーチャルマーケットは、2018年にHIKKY取締役CVOの「動く城のフィオ」(ハンドルネーム)氏の呼びかけで誕生したVRイベントで、個人のクリエイターや企業が、VR空間内で使えるデジタルアイテムや現実世界で使える商品を出展する。参加者はアバターとしてVR空間上の会場に入り、商品の売買やアトラクション体験、他の参加者とのコミュニケーションを楽しむことができる。
2020年5月に開催された「バーチャルマーケット4」では、東京都を模したメイン会場(「パラリアルトーキョー」)など6つの仮想会場(ワールド)が設けられ、企業43社、1100組の個人クリエイターが出展。過去最大の賑わいを見せた。
HIKKY代表取締役の舟越靖氏によると、その発端は2018年頃に起きたVRブームにさかのぼる。当時、安価なHMD(ヘッドマンティングディスプレイ)の登場などにより、VR空間で遊びながら3Dデジタルアイテムやアトラクションなどを作る「クリエイター」が多数現れた。しかしクリエイターがおもしろいものを作っているにもかかわらず、新規な領域であるため、人の目に触れる機会も少なく、市場の評価が追いついていなかった。そこで「クリエイターが作ったものを広く展示し、買ってもらう市場を作ろう」と、自身もクリエイターである動く城のフィオ氏が企画し立ち上げたのが「バーチャルマーケット」だ。
「クリエイターがものを作る機会になり、作ったものが評価されやすい環境を提供しようと考えたのがそもそもの発端です」(舟越氏)。
バーチャルマーケットは2018年の初回以来、回を重ねるごとに出展者や参加企業、来場者を大幅に増やしている。舟越氏は「正直なぜここまで人が集まるのかわからない」としながらも、「クリエイターにとってさらに参加しやすく、作品表現をしやすい環境を作っていくことがさらなる市場の成長につながる」と述べる。
「ビジネス本位になると、いかに入場料をとるか、いかに企業にスポンサーになってもらうかといったマネタイズ優先に走ってしまいそうになります。しかしそこで踏みとどまり、バランスを巧く取りつつ、あくまでも参加していただいているクリエイターが社会や市場に広く評価されることができるような環境を整えられればと考えています」
さらに、クリエイターファーストなVRイベントを開催することは、VR/AR関連のコンテンツ制作を事業の軸に据える「HIKKYの強みにもつながる」と舟越氏は続ける。
バーチャルマーケットではVR関連のさまざまな技術を駆使しているが、イベント実現のためにたくさんのクリエイターの力を借りている。そこで関係ができたクリエイターとは、企業から依頼を受けVRコンテンツを構築するときなど、バーチャルマーケット以外の仕事をする際にも力を借りられるとのこと。
「私たちが言う『市場を作る』とは、クリエイターの仕事を生むことも含め、あらゆる方向の市場を作り出していくことを意味します。このコロナ禍の中、VRに対して企業からの注目がさらに高まっており、今後より多くの仕事を生み出していけるのではないかと考えています」
VRイベントから生まれた新しい働き方
VRイベントの主催者として新型コロナウイルスの影響をどう感じているのだろう。
舟越氏は新型コロナウイルスの影響下にあった「バーチャルマーケット4」では、国内だけでなく海外からの問い合わせが急増するなど「これまでにない大きな反響があった」とのこと。
「新型コロナの影響で展示会やイベントが打てなくなり、これまで企業が行っていたプロモーション手段の大きな一手が失われている状態です。そうしたときの代替手段のひとつとして、我々のイベントが再評価されているのだと思います」
さらに一般的な企業主催のVRイベントは、有名なVチューバーやタレントの知名度を利用して来場者を集めているが、バーチャルマーケットはクリエイターたちの作ったコンテンツの物量を呼び水として来場者を大幅に増やしてきた。「こうした、他のVRイベントにはない実績があることも、注目を集める大きな要因になっている」と胸を張る。
バーチャルマーケットは人が働くスタイルにも変化をもたらした。舟越氏らは「バーチャルマーケット3」を開催した際に、仮想渋谷109に出展したティーンブランドのショップ向けに、VR/AR技術を使った接客ソリューションを提供した。
「どういうものかというと、まずお客さまが現実世界の渋谷109の店舗に行くと、お店には店員がいません。しかしスマートフォンのARツールでお店をのぞくと、そこに店員さんが現れます。実はVR空間側の仮想店舗に実店舗と同じ環境を作り、アバターとなった店員に立ってもらうようにしたのです。要は、店員が自宅にいながら非接触で接客できる仕組みを提供したわけです」
5月の「バーチャルマーケット4」では、コロナ禍で店舗は休業中だったため、実店舗で働けないアパレル店員に、VR空間の店舗で接客してもらうという取り組みを展開した。
「今回のVR空間での接客という取り組みは、来場してくれた皆さんの評判が非常によく、新型コロナの影響下にある今後のVRイベントを考えるうえでとても意味があると考えています」。
VR空間をうまく利用して、クリエイターや休業中のショップ店員などの可能性を広げてきた「バーチャルマーケット」。今後の可能性について聞くと、非接触でコミュニケーションができるVRイベントは「新型コロナの影響が避けられないこれからの時代に確実に価値を増す」と自信をのぞかせた。
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